イノベーティブな新規事業のアイデアを思いついたとしても、そのアイデアが正しくユーザーの課題解決につながるのか不安で、自信を持って社内提案できないということはありませんか?
アイデアの方向性を検討するうえで、アンケートなど定量的な調査が成果を上げることはありますが、100人の最大公約数よりも、たった1人の強烈なインサイトを発見することがイノベーションの大きな一歩になります。
インサイトを発見する際には、インタビューでペルソナのもつ潜在的な課題を深掘りし、仮説を立てる方法がしばしばとられます。
この記事ではユーザーインタビューのテクニックと課題仮説の発見のノウハウについて解説します。
インサイトとは、ユーザー自身も気づいていない無意識の心理のことです。
潜在ニーズと混同されがちですが、ユーザーはまだ欲求さえない状態を指しているため、言動や行動、感情、思考など、ユーザーの表面的な部分から奥底のインサイトを見抜かなければなりません。
一方で、顕在化されたニーズはユーザーの意識下にある欲求であり、ユーザー自信が自覚しているため、その欲求を満たせるような購買行動をとります。
例えば、「痩せたい」というユーザーの顕在ニーズには、フィットネスジムに通うことや自転車で通勤するという解決策がすぐに思い浮かぶと思います。
しかし、かつて「痩せたい」ユーザーの中には「努力せず楽して健康に痩せたい」というインサイトがありました。
このインサイトを解決するソリューションとして具現化されたものが、「サントリー特茶」のような飲料だったり、「SIXPAD」のようなダイエット器具になります。
このようにプロダクトやサービスの中にある当たり前のこととして見過ごしている課題や、利用して初めてわかる感情など、さまざまなところにインサイトが存在しています。
インサイトを見つけることで、ユーザーの無意識のニーズを満たすプロダクトやサービスを開発するアイデアが生まれます。
アンケートやユーザーインタビュー、行動観察など、インサイトを発見するための調査方法はさまざまですが、どれか一つを行えば発見できるものではなく、あらゆる調査で得られた結果をもとに洞察を加え、まずは課題の仮説を立てる必要があります。
ユーザーインタビューは、想定するペルソナに対して質問に回答してもらう形で意見を聞き取る調査方法です。
アンケートなどの明確な数値や傾向を計測する「定量調査」に対して、ユーザーインタビューはペルソナのニーズや課題を深掘りするための「定性調査」に分類されます。
定性調査は、インタビューや観察結果といった数値化できないデータを分析し、統計的な精度は求めず一つひとつの事例から深い洞察を得ることが目的となります。
ユーザーインタビューでは、個別のユーザー体験に着目し分析することで、定量データだけでは見えてこない、ユーザー本人ですら気付いていないニーズ(インサイト)の仮説を抽出することが可能です。
ユーザーインタビューを実施する前に、まず考えなければならないのは、
といったインタビューの目的を設計することです。
新規事業において、アイデアの段階ですぐにユーザーの持つ特定の課題を、思いつく方法でソリューションしようと考えてしまいがちです。
しかし、この「ユーザーの持つ特定の課題」というのはあくまでも仮説であり、その仮説が本当に存在しているのか、またその仮説がインサイトなのかを判断せねばなりません。
誰が見ても明らかな課題(顕在化したニーズ)の場合、基本的には既にソリューションされている、もしくは現在の技術ではソリューションできないというケースがほとんどなので、インタビューの必要はありません。
※この記事では、テクノロジーの進化による解決は対象外としています。
スモールビジネスなど、イノベーティブなビジネスプランでない場合、顕在ニーズのボリューム調査はアンケートなど定量的なリサーチ手法で達成できます。
一方で、アイデア段階の課題仮説を、ユーザーインタビューによって調査・分析し、インサイトとして考察することは、その後のプロダクトやサービスの設計をする上で間違った方針で開発を進めないために非常に重要なプロセスとなります。
アイデア段階の課題仮説は、既に代替手段を持っているか、そもそもユーザーが課題に感じていないかの、どちらかであることがほとんどです。
なぜならばインサイトはユーザーがまだ欲求さえない状態を指しているため、逆に言うと「探ろうとしない限り偶然見つかるものではない」というものだからです。
インタビューを繰り返すと、思いがけないニーズや意見が出てきます。
ただし、そのニーズや意見は顕在化されたもののため、インサイトであるケースは稀です。
ユーザーインタビューでは、課題仮説の有無をヒアリングするのではなく、その背景にある「ユーザーの本音」を特定するための質問をしましょう。
インタビューに答えていただく方は、問いたい状況やモノ、活動になじみがあり、よく知っている方でなければなりません。
そうでなければ、相手もよくわからないまま推測で答えることになります。
新規事業において、アイデアの初期段階でターゲットも明確に決まらないままインタビューを繰り返しても潜在的なニーズや課題は得られません。
より具体的で明確なペルソナを設定し、そのペルソナにできるだけマッチする方をリクルーティング(インタビュイーの採用活動)しましょう。
調査の目的と概要が決まったら、インタビューの計画書を作成します。
計画書には以下の内容を決めていきましょう。
計画書を作成する理由はチーム内で認識を合わせるためであり、その後のインタビューの詳細内容やインタビューによって得られた結果を正しく分析するために必要となります。
インタビューガイドはヒアリングの内容とその順序を話題のまとまりごとに書いたドキュメントのことです。
スムーズなインタビューを行うことで、インタビュイーが話しやすい雰囲気を作り、深い思考や感情を引き出したり、内容の聞きもれや、インタビュアーによってインタビューの内容がブレないようにするために作成します。
相手が答えに詰まりそうな質問には、具体例をいくつか書いておきます。
仮説となっている内容を示して、それがインタビュイーに当てはまるのか、受け入れられるのかといったことを聞くのが基本です。
しかし、インタビュアーが直接仮説を示して意見を求めてしまうと、世間一般の評価をイメージし「そうですね」と話を合わせるような回答になってしまいがちです。
また、いきなり「◯◯についてどう思いますか?」と聞くと、相手は自分の生活や仕事の背景を幅広く思い出すことなく、質問の一面を捉えて、良いか悪いかという端的な判断をされてしまうこともあります。
こうした問題を避けるためにも、検証したい内容の周辺にある話題について質問し、インタビュイーの考え方や生活・仕事の様子を理解した上で、それを踏まえた質問ができるように質問項目を設計をします。
インタビューが弾むと、予想外に面白いエピソードや関心の高いエピソードが飛び出すことがあります。
目的にあった有益な内容であれば掘り下げるべきですが、その話題に時間を使うことで他の質問に費やす時間が削られてしまいます。
そのため、インタビューガイドには話題ごとのタイムスケジュールと各質問の優先度を書き添えておきましょう。
インタビューガイドが完成したら、必ずインタビュアーを担当するチームメンバーでレビューします。
レビューの観点は、ペルソナに沿った質問になっているか、質問の意図が明確になっているか、質問の表現で誤解を招く箇所はないかなど、ロールプレイング形式でチェックすることをおすすめします。
また、レビューを繰り返すことでインタビュアー同士で質問する目的や意図を深く共有でき、メンバーによってインタビューのクオリティに差が出ないようにすることにもつながります。
リクルーティングは、インタビューの目的に対して、ヒアリングできる相手を募集することを指します。
リクルーティングの方法としてまずは、身近にいる家族や友人、同僚などペルソナに該当しそうな人を探してみましょう。
該当者が見つからなければ、それらの方に参加者の条件を伝え、知人を紹介してもらうのが最も有効な手段です。
その他、実際に私がお金を使わずに集めている方法をいくつか紹介します。
FacebookやTwitterで参加者の条件を記載しインタビュイーを募集している旨を投稿してみましょう。
その際、直接的な募集ではなく、フォロワーに拡散をお願いすると、より多くの人に届きやすくなります。
自社サービスを運営している場合は、そのデータベースからメルマガやWebサイト経由で広く募集します。
目ぼしいクライアントの担当者などに聞いてみるのもよいでしょう。
新規事業が既存事業と大きく異なるターゲットでなければ、大抵は見つかります。
類は友を呼ぶと言われるように、インタビューを行った後には必ずインタビュイーに紹介をお願いすることで、似た属性のユーザーに出会うことができます。
インタビュー中にメモを取ると書き漏れや誤ったニュアンスで汲み取ってしまうことがあるため、必ず録音・録画機材を用意し、インタビューの後に詳細に分析するようにしています。
最近ではZoomなどオンラインでのインタビューが主流のため、Zoomの録画機能を使って表情なども見返します。
レコーディングの際には、相手に一言了承をとりましょう。
インタビューの質を上げるためには、相手の本音を聞き出すことも大事ですが、先入観をなくして会話することも重要なポイントです。
自分と面識のある方とはインタビューを実施せず、他のメンバーにインタビューを任せましょう。
その際、初めて顔を合わせるインタビュイーが話しやすい場作りが重要となります。
基本的にインタビュイーは、慣れないインタビューで緊張しているケースが多いです。
リラックスした状態でインタビューに答えてもらうため、まずはラポール(被験者との信頼関係を築く)を形成しましょう。
ラポールとは?
元はオーストリアの精神科医フランツ・アントン・メスメルが「動物磁気」に感応したクライエントとの間に生じた関係を表現するために用いた語である。
その後、セラピストとクライエントの間に、相互を信頼し合い、安心して自由に振る舞ったり感情の交流を行える関係が成立している状態を表す語として用いられるようになった。
カウンセリングや心理療法をどのような立場から行う場合であっても、ラポールは共通した基本的な前提条件として重視されている。
ラポール形成への第一歩は、インタビュイーへの「共感」と「弟子入り」です。
アイスブレイクからはじまり、インタビュイーの環境(仕事や生活スタイル)へ共感する話題作りと、師匠と弟子のように教えを請う心構えで質問します。
インタビューガイドに沿って質問を投げかける際はオープンクエスチョンとクローズドクエスチョンを使い分けていきましょう。
アンケートのようにデータがとりたい場合はオープンクエスチョン、ユーザーの真意や行動に対して不明点が多い項目についてはクローズドクエスチョンで質問し、回答に応じて深堀りしていきます。
クローズドクエスチョンで質問をした際、インタビュイー自身が無意識で行動しているような内容であると、回答に困り「間」が生まれることがあります。
この際、無音の間が耐えられなくて、質問の意図や具体例をインタビュアーから出してしまいがちですが、思いがけない回答を得られることがありますので、グッと堪えて10秒ほどは回答を待ってみます。
インタビューはユーザーのニーズがわかっていない新規事業ほど、その後のプロダクトやサービスの設計に大きく影響するフェーズです。
新規事業のインタビューは件数をこなすことでも、ユーザーの行動や思考を確認するものでもなく、無意識の欲求であるインサイトを発見するための分析データを得る手段です。
クランチタイマーでは、Webサイト制作やスマホアプリ・Webサービスの開発において、エンドユーザーを深く理解するためにインタビューを用いることがあります。
新規事業の企画やWebサイトのコンセプトなどでお悩みの場合は、ユーザーインサイトの見つけ方からサポートしますので、是非お気軽にご相談ください。
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